「海の魚鱗宮」/山岸涼子

 (※ネタばれありです)
 山岸涼子の愛蔵版の文庫本で「ハトシェプスト」という本があるのですが、この中に短編の小作品がある。この作品がとても印象深かった。「海の魚鱗宮」という短編なのですが、背筋が寒くなる才能というのを思い知りました。
 海が近い田舎町の出身のある主婦は娘を連れて田舎町の法事に帰る。幼少期に海辺で自分の女友達が失踪するが、自分の娘がまたそれと同じ様な場面に遭遇するというのが大枠の話。
 でも、事件よりもその主婦の中の「少女の中にある性」への嫌悪感とか、誘拐された「愛らしい少女」の性的な魅力に対する嫉妬とか、自分の娘に男の子の服装をさせるとか・・・いう彼女の中にできあがってしまった感覚に対して読んでいて「ああ、わかる」と怖いくらいにシンクロしてしまいます。

 後、「故郷・海が近い(などの子どもが覚えやすい地理状況)・保守的な田舎町・優しい顔をした身近な性犯罪者・顔を思い出せない幼友達・忘れてしまった(忘れる必要があった)恐怖体験」などの断片的なイメージが何か余計に自分(達)が体験をしてきた「人には言えないけれど不確かな記憶」として女性の中に閉じこめている部分とあまりに重なりすぎる様な気がして・・・。
 子どもは大人が見えない本質的な部分を見抜いたり、でも、それを幻想として自分の中にしまったり、うまく合理化してサバイブしたり、本当にすごい生き物だと思う。
 これ図書館で借りたんで今度はきちんと買って手元に置いておきたいなと思いました。