線路と娼婦とサッカーボール

  このドキュメンタリーはグアテマラ・シティの線路(リネア)と呼ばれる貧民街の娼婦たちが、サッカー・チームを結成して、差別を初めとする社会問題を提起していく実話。
 編集のテンポが悪くて多少中だるみしている以外はなかなかの秀作で、ガテマラでの最下層の女性達の日常が生き生きと描かれた作品だった。ただ、受け取り方によってはステレオタイプな娼婦像を流布させてしまいかねない表現もあったなあと。
 これは最近アカデミックな業界の人とよく話す問題なんだけど、「●●になる人はかならず過去に性的トラウマがある」という神話。もちろん売春婦であれ、腐女子であれ、摂食障害であれ、もしかしたら過去に性的トラウマがあったかもしれないが、中には無い人だっているわけである。
 っていうかもっと言うと様々な階層、様々な職業などカテゴリーに関係無く、あらゆる女性にとって性暴力はあまりに身近な出来事なんじゃないの?
 にもかかわらず「●●だから性的トラウマがある論」というのはなにかしらのネガティブイメージを恣意的に特定のカテゴリに定着する装置になってないか?もっとやっかいな場合男性に無意味なオリエンタリズムを誘発する装置になってないか?だから宮台みたいな学者がしたり顔で言いたい放題女子高生などを代弁するわけである。勘弁してほしい。日本人男性の風俗嬢やAV女優への憐憫を含んだ美化にもなにかしらトホホなものを感じる。

 パンフレットに書かれた社会学宮台真司のコメントにドン引き。娼婦を「菩薩」と表現するあたり「ああ、援助交際ブーム以来この人は長い年月かけても何も学んでないんだなあ」・・・と物悲しくなった。ああ、やだやだ。塩もってこい!って感じですよ。
 
 性暴力は深刻な問題だ、特に幼少期のトラウマはもっと深刻だと思う。ただ、もてあそばないで欲しい。事実はそれと受け止める。でも運動や学術の為に利用しないで冷静に、イーブンに受け止めればいいんじゃないの?サバイバーがそれを自分のアイデンティティーにするかどうかはそれは「本人の問題」である。





赤城高原ホスピタルHPより【警察に通報しない性暴力被害者の研究】
 ここでの調査では女性患者の10.4%が性被害を過去に受けている上に被害者のうち72.7%が複数回被害を受けている。職業に関してはもちろん無作為である。
 http://www2.wind.ne.jp/Akagi-kohgen-HP/SAworeport.htm